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例えばある研究者は、研究費を不正に使用していた。希望していた研究所に配属する事ができず、自分には全く興味のない分野に携わらなければならない事は苦痛であり、時間を無駄にしている事に虚しさ感じていたのである。もちろん、不正に関わるのは彼一人の力では無理であり協力者がいた。彼らはその不正が明るみに出る事がないように周到な証拠隠滅と口裏合わせを少しずつ行ってきた。そして実際、何者かのリークにより内部調査が行われるに至る。彼にはどんな調査が入っても不審な点はもみ消せる自信があった。誤算だったのは、協力者だと思われていた奴が不正を調査するチームに抜擢された事である。というごくありふれた喜劇の典型があるとして。

例えば別の研究者は、同僚を殺したいほど憎んでいた。自分よりも劣っているにも関わらず、世渡りが上手いだけの男を元々好きにはなれなかった。それだけならば放っておけばいいだけの話だったが、自分の研究成果を横取りされた時点で彼の殺意は明確なものになった。かといってあの男の為に自分の人生を棒にふるわけにはいかない。その為に周到に準備をし、殺害計画を練り上げた。誤算だったのは、いざ計画を実行に移す段階に至り、すでにそいつが遺体となっていて、自分がその第一発見者となってしまった事であり、その後、周囲の疑惑の目が間違いなく自分に向いているという事である。というごくありふれた喜劇の典型があるとして。

例えばまたとある職員は職場の女と結婚の約束をしている。妻は仕事が忙しく家に帰る事も少なく、夫の二重生活に気付く事もなかった。もちろん、女の方も男が結婚していることなど知る由もない。妻と別れればいいかというと、落ち度のない彼女に莫大な慰謝料を払う必要があり、簡単な話ではない。では目の前の女と別れればいいかというと、自分はその父親の力で今のこの役職に就いていられる為、やはり簡単な話ではない。彼としてはできればこのまま目の前の問題に目を瞑ってやり過ごしたかった。誤算だったのは、研究者である妻が新しくこの研究所に配属されてしまったことである。というごくありふれた喜劇の典型があるとして。

これらの問題がある日、一気に露呈してしまう事になる。
その日起きた出来ごとは悲惨の一言につき、それぞれの日常は崩れ去った。不穏の前兆はその前日からあった。あの時の自分の立ち振る舞い次第で、今日のこの状況は避けられたのではないか。
事態の打開が不可能だと悟った時、彼らは自分たちの運の無さを嘆くと同時に、せめて「一日前」に戻って、問題の種を取り除きたい。というごくありふれた喜劇の典型を思い浮かべるのである。
そもそもこの場所で何が研究されていたかというと、量子的重なりを利用した転送すなわち、テレポーテーション(転送装置)の実験である。そんな空想のような事が可能なのかと問われれば、理論上では不可能ではないが、かといって近い将来実用に耐えうるのかと問われれば、まだまだ空論でしかない。とはいえ、この研究に取り組む女性研究者は基礎的な実験に成功した。いや、成功したとそう本人が言っている。関係者が見守る中、再現実験が行われたが、失敗に終わる。彼女によると実験は200回以上成功しているそうなのだが、他にそれを確認した者はいないし、実験ノートもどこかおかしい。周囲の失望と疑惑を他所に、彼女は確信している。だって昨日も成功しているのだから。「一日前」をもう一度皆に目撃してほしい。
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ごくありふれた喜劇の典型の数々は、ちょっとした時空の歪みで、場違いな喜劇へ生まれ変わる。

  

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