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亡くなった母親を取り戻そうと、死者の国である月へ行ってみるという子供ならではの発想は、いつしか「水面の月を掬って手に入れる」へ置き換わった。満月が水面に映えた深夜、マンションの裏の池に子供たちが思い思いの掬う道具をもって集まるマンションに引っ越してきたばかりの内気な少年・ハムくん(岩田裕耳)は月を「掬う」を「救う」と勘違いし、一人、大いなる宇宙意思ウンズムマルタスに立ち向かおうとしていた。その勘違いを哂うことなく、屈託ない態度で接してくれた隣の部屋のキコ(新野アコヤ)にハムくんは前々から惹かれいて、この時も2人でふざけ合っていたが、弾みでキコは落水し、二度と浮かび上がってこなかった。その悲惨な事故は50年たった今でも公彦(=ハムくん)の心を覆っていた。

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303号室には女の子の幽霊が出る噂があり、管理人の屋久(町屋圭祐)の悩みであった。隣室302号の三浦(小原雄平)とその妻・真奈(吉岡優希)はスマートホームを提案する。AIロボットに話しかけるだけで家の中の機器を管理できるシステムを導入すれば借り手がつくのではないかと。だが、試作品として持ち出した「サンサール」は、AIと無縁のただの置物だった。呆れる屋久の背後では霊媒師・大谷(道井良樹)による除霊が厳かに終了するも、三浦は冗談で電気を消すようにサンサールに話しかける。すると部屋の電気は消えた。その現象に理解が追い付かない彼らの前で、見えない力が大谷の手を操り、文字を書き始める。記されたのは、部屋の電気を消したのは自分である事、名前は「キコ」であるという事であった。

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どことも知れない小さな空間に3人の女、キコ、イオ(犬井のぞみ)、ミヨ(坂本ともこ)が閉じ込められている。彼女たちはいわゆる「幽霊」として知られる存在だが、イオとミヨは自分が何故死んだのか自覚できないでいた。2人より長くこの場にいるらしいキコに尋ねるも、彼女たちはそれぞれ目、耳、口のいずれかを塞がれており、上手くコミュニケーションが取れない。それどころかその不自由さは目まぐるしくローテーションする。キコは言った。そこは魂が輪廻を待つ場所である「サンサール」という場所であり、死んだ人間が現世に遺した想いを整理する場所である。自分達は一体、何故死んでしまったのか。それを探さなければ、成仏ができないのだと。それまでは感覚を共有する、いわば3人で1つなのだと。

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新婚の姉の部屋に居候していた結有(小林知未)は、電気のついてない部屋で1人佇んでいた。そこへ具合の悪そうにした姉・愛実(大崎優花)が、隣室の真奈に支えられて帰宅してくる。「電気をつけて」と愛実が命じると、見慣れない女が部屋のスイッチを点灯させる。この女の存在に気付いたのはつい最近の事である。彼女は言葉を発する事なく、姉に命じられた家の中の事をせっせとこなしている。愛美の悩みは父親の事であった。詐欺罪で服役していた父親が仮釈放され、ここでしばらく同居しなければならない。夫には父親の存在をひた隠しにしてきた。愛実はサンサールに話しかけて父親の写真を呼び出す。そこに映し出されたのはかつてこの部屋の除霊に訪れていた大谷であった。

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303号室に住む、人付き合いの苦手な伊緒(犬井のぞみ)は帰宅すると毎日サンサールに話しかけていた。深夜に仕事に出かけていく父親の公彦(岩田裕耳)は、そんな娘を咎めるが、生活のサイクルが合わない為、親子の会話も十分ではない。それでも伊緒はかねてからの疑問を投げかけた。仏壇の遺影の母親は本当の母親なのか。遺影のその顔は何故か幼く、何となく違和感を覚えていた。伊緒の疑問に公彦はいつもの通り、話をはぐらかした。苛立ちをぶつけ合う、小さな親子喧嘩の末、公彦は仕事へと出かけていった。再びサンサールに話しかけるも、聞こえてきたのは警察に助けを求める不穏な声であった。そこへ屋久と三浦が訪れる。

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三浦の部屋から盗聴器が見つかり、それをこの部屋のサンサールで受信しているのではないかという話であった。伊緒が会話していたのは、隣の部屋から聞こえてきた音声だという事になる。それはつまり、真奈が警察に助けを求めていた事にならないか。そう疑った屋久と伊緒は、今、不在にしている真奈の安否を三浦に問い詰める。以前から満月の夜に、女性が失踪しているという話があり、たまたまこの日も満月だったため、三浦に疑いをもつ。重い口を割った三浦の告白は、結局、不穏とは無縁のものであったが、2人が部屋を出て行った後、サンサールが聞き覚えのある言葉を喋る。その瞬間、玄関が開く音がする。伊緒は父親と警察に助けを求めて必死で叫んだ。サンサールから聞こえてきた声は自分が発した言葉であった。

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303号室で同棲している神宮(塩田良平)と未世(坂本ともこ)であったが、些細な事から喧嘩をし、未世は部屋を出ていくと言い出す。神宮は前々から別の男の存在があると感じていて、彼女を激しく責める。窓の外から裏の池に何かが落ちた音がする。未世が覗いてみると、男が何かを池に捨てた直後であった。管理人に通報しようとその証拠として、神宮はサンサールが録画状態にあった為、何か記録されてないか確認しようとする。サンサールにカメラ機能がある事を知らなかった未世は自分の生活を隠し撮りしていた神宮を責めるが、ひとまず録画の内容を確認しようとする。ところが神宮は再生方法を知らず彼女を呆れさせる。

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神宮は未世を残して池の様子を見に行く。1人されて不安を覚えた未世の前に急に男が出現する。それはサンサールが記録していたかつてこの部屋に住んでいた公彦の姿であった。映像と気づかずに公彦を不審者扱いする未世を尻目に、公彦の映像は淡々とかつてこの部屋で伊緒と交わした言動を再現するのみで、やがて消えて行った。池から戻った神宮はサンサールを再生させようと揺さぶってみる。するとその映像は再び出現する。再び同じ言動を、ランダムに再現する公彦の映像を、未世の男だと勘違いした神宮は激しく口論するが、話はかみ合わず、やがて消えていく。その姿を追って部屋を出ていく神宮。再び未世が部屋に1人取り残されると、玄関が開いて、誰かが侵入してきた。

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結有はキコを家政婦だと認識している。不思議な事に、姉は彼女に一方的に指示するだけで、その存在が目に入っていないかのようであった。この日、姉妹の父・大谷が仮釈放されこの部屋へやってきた。彼は部屋に入るなり、サンサールに興味を示すも、愛実の指示一つでありとあらゆる事をやってしまうサンサールに不信感を抱く。結有にはそれらすべてがキコが行っている様にしか見えなかった。愛実は父親のせいで肩身の狭い思いをしてきた恨みをぶつけ、夫に対して父親の存在をどう隠すか悩む。愛実の言葉の端々を指示と勘違いしたキコは、大谷に様々な怪現象をもたらす。大谷は、かつてこの部屋を除霊に訪れた事を思い出した。この部屋には幽霊がいるのだと。結有はキコのように見知らぬ女がもう2人増えている事に気付く

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結有はキコ達によって自分が死んでいる事を自覚させられる。この場所に縛られた彼女たちは、サンサールに記憶された声や映像を頼りに、自分たちが遺した想いをさぐろうとする。帰宅した愛実が部屋の明かりをつけるとそこには屋久が佇んでいた。近頃、不審者がマンションのフロアに出入りしていると忠告する。三浦が撮影したその不審者の顔を屋久は覚えていた。それは失踪した娘の手掛かりを探している榊公彦であった。そして公彦は既に、この部屋をまさに訪れている最中であった。屋久は伊緒の件を諦めさせようと、この部屋に愛実と同居しているという霊媒師・大谷の事を紹介する。時を同じくして出張からもどった愛実の夫・神宮は、三浦夫妻から、愛実の亡くなったはず父親が部屋に来ていると教えられる。

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神宮は自分の部屋にいた公彦を愛実の父親だと、また公彦は神宮が霊媒師だと、互いに勘違いする。公彦は伊緒の声を聞かせてほしいと願うが、神宮はただただ困惑する。そこへ伊緒の声が響き渡る。それはサンサールを通じた、霊たちの現世へのコミュニケーション方法であった。同様の方法で、神宮はかつてこの部屋で一緒に暮らしていた未世の声を耳にする。一方、大谷は屋久に依頼され、霊媒師として公彦に伊緒の事を諦めさせようとするも、死者の声を聞くことができる(と思っている)神宮を前に、また愛実の手前、無関係を装うしかなかった。公彦も神宮も、大切な人が突然いなくなった経緯を知りたいという思いは一緒であった。またミヨやイオは、かつてこの場所で何があったのかを思い出そうとする。

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ミヨがサンサールを通じて表出させた記憶は、屋久が池に何かを投げ捨てる光景であった。それは未世が神宮と喧嘩をした日、窓の外で目撃した光景でもあった。屋久は満月の夜になると住人の女性の家に侵入し、殺害した後に池の底に沈めていた。その事実を追及されても屋久は認めようとはしなかった。イオはサンサールを通じて、自白させようと試みる。それでも屋久は認めようとしない。真奈が何気なく、自白を促す為に挙手を求めた際、キコは屋久の手を掴み、高々と挙げさせた。周りの人間には、それは屋久が自ら挙げたようにしか見えなかった。彼は、観念し、自分が犯した事を告白する。それは、かつて池で起きた悲しい事故から想起した、亡き妻を取り戻したいという、およそ理解のできない行動であった。

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勝手な言い分を並べる屋久を、大谷は一喝する。本当は霊能力のない彼にとって人命は尊いものであり、そんな事は今更説くべき事でもない当たり前のことである。愛実は毛嫌いしていた父親の本当の部分を垣間見た気がした。心残りが消えた事でミヨ、イオは次々に解き放たれていく。別れ際、公彦は伊緒と最後の言葉を交わし、自分がかつて池で助けてあげられたなかった少女の話をする。仏壇の遺影は、自分の初恋の相手であるその少女だったこと。伊緒は養子であったこと。自分を責め立てる公彦にキコは手を伸ばし、優しい言葉をかけた。その瞬間、えも知れぬ懐かしさを感じた。イオは公彦に「お父さん、ただいま」と声をかける。親娘は一緒に部屋を後にした。

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愛実は妹の死をずっと受け入れられないでいる。同じく父親として向き合えずにいた大谷にその苛立ちの矛先を向けていたに過ぎない。霊の存在など信じず、霊能力も否定している愛実ではあるが、結有の存在を感じたくてここに住む覚悟を決めた。それでも結有の声は聞こえない。そんな自己矛盾を抱えた娘と、大谷はやはり似た者親子であった。1人になった部屋で大谷は結有に話しかける。突然の事に驚く結有であったが、話はやはりかみ合わず、父は言いたい事を言って出かけて行った。本当に見えているのか、聞こえているのか。それとも―。
結有は自分が成仏できない事を知っている。そしてそれでいいのだという事も。その理由にキコは、驚きを隠さなかった。

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