【11】 野村「すいません。野村と申します。不躾なお願いで恐縮なんですけど。記事を書いて欲しいんです。姉の事件の事です。今年の一月の事です、姉は何者かに殺害されました」 天下「お嬢さん。落ち着いたらどうだい。何の事件だって?」
【12】 野村「あの。私、一目見た時から気づいてたんですけど。あなたは」 天下「ちょっと待ってくれ。…心の準備ってものが。…アンタ、俺の」 野村「熊さんみたいですね。アメリカの熊の、ぬいぐるみの」 天下「…そうかい。そうだよな。里子のわけがねぇ」
【13】 嵯峨「私がやりますから。社会部の方ですよね?でしたら女性の方が、社会部の記者を訊ねてきたんですけど。野村さんという方なんですが」 和泉「…僕でいいんですか?」 嵯峨「絶望的に方向に疎いようで。中で迷っているんじゃないかと。見つけたら案内しますので、ここにいてもらえますか? 天下「アンタが山部か」 和泉「いや、違います」
【14】 平井「父なんです。犯人として逮捕されたのは、私の父親です」 和泉「…それは、何と言うか…さぞ苦労されてる事でしょうね」 平井「謂れのない汚名を着せられて。どれだけ訴えかけても、警察も新聞も相手にしてくれません。冤罪である事を記事にしてほしいんです」
【15】 河瀬「こちらにいらっしゃるのは」 藤丸「戦争が終わってすぐの頃だったな。闇市に荷を卸しに来た以来か」 河瀬「じゃあ、随分と驚かれたんじゃないですか」 藤丸「あ、違うな。先月、娘の2人目の出産の時に来たな。年が明けてからも、銀行の口座の解約に一度来たな。その前は、半年くらい前に」 河瀬「結構な頻度で来てますね」
【16】 井上「どういう感じなんでしょう。その。手応えみたいなものは」 立花「そうですね。いいとは思います。才能は感じます。一応、上の判断を仰いでからという事になりますが」
【17】 双葉「具体的にどこがダメなのかわからなければ」 河瀬「それは私に訊かれても。編集長からそう聞いただけなんだから」 双葉「…あの、じゃあ、江川さんの現在の連絡先を教えてください」 河瀬「それが引っ越されたみたいで。電話も誰も知らない」 双葉「…あれ?とんでもなく厄介な仕事、押し付けました?」
【18】 河瀬「主人公の男女の名前は」 立花「ええと、男はロミオ、女はジュリエットですね」 河瀬「題名は?」 立花「ロミオとジュリエットですね」 河瀬「全部だめよ。似てるとか盗作とかそういう事を言っているんじゃないの。そのまんまなの」
【19】 藤丸「自然ってのはとにかく厳しいって事だな。折り合いがつかないのが当然。それを無理くり人がそこで生活を―、生活ったって、実際あれよ。日が昇れば起きて畑を耕して、山の恵みを集めて、日が沈めば感謝して寝る。それの繰り返しよ。とにかく何にもねぇ山ん中だから。他に聞きたい事ないの?」
【20】 児玉「事件ですか。それも、殺人事件」 野村「新聞等でも報道されないし、警察も取り合ってくれないんです」 児玉「それでウチで記事にしろと。本当にその事件はあったんですか?」 野村「私が嘘を言っているとでも?ちゃんと調べてもらえばわかります」 児玉「わかりました。少し、上と相談してきます」
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撮影者:佐藤淳一 ※この画像の著作権は団体並びに撮影者に帰属します。