徳大寺製薬グループ会長・徳大寺義孝氏の通夜が執り行われた後、屋敷の客間には、故人の子供である２人の兄妹と数名の関係者たちが密かに集められ、顧問弁護士和泉の立会いの下、故人の遺書が公開される事となった。２人の兄妹・光孝と紫は会社の経営や家の事について何かとぶつかりあっていて、その場に集められた秘書や、家政婦、懇意にしていた画商たちは居心地の悪さを覚えていた。そこへ小倉と名乗る一人の男が現れる。
彼は義孝が今までその存在を隠してきた、婚外子であった。
小倉の存在を警戒する光孝たちであったが、意外にも小倉は相続には関心を示さず、それを放棄する代わりに義孝が愛蔵していた絵図を譲って欲しいと申し出る。
光孝がホッとしたのも束の間、遺書が公開される。そこには「後継者は多数決で決める」という信じがたい仕組みとその決の方法「EZ」が指示されていた。
順当に光孝に相続されるものと思われていた遺産は、あろう事かここにいる10人で平等に分けなければならない可能性もでてきた。これを幸いにと水面下で各人の思惑が入り乱れる事となる。
投票を5回までやり直せるのを盾に、光孝は多数派工作を試みるが、各々の「遺産が欲しい」「光孝に仕返ししたい」「紫に好かれたい」「早く帰りたい」などの身勝手な理由や、誤解から生じる裏切りなどから、回を増すごとに得票点は減っていく一方であった。
小倉は幼い頃の面識しかない父親の実像を知りたくてこの場を訪れた。その場にいる関係者たちの言葉を拾い集めるにつれ、徐々に義孝の人物像が浮かびあがってくる。それはまるで、義孝が大切にしていた絵図に込められたメッセージのようでもある。と共に、ある一つの疑惑が持ち上がる。運転が趣味であった父親が引き起こした居眠りによる事故。それは光孝が故意に仕組んだのではないかという事。光孝は周囲から疑惑の目を向けられて不利な立場に立たされる。
兄妹の亀裂が決定的となり、遺産まで失おうとしている光孝とそれを嘲笑う紫。そんな二人を小倉は冷めた目で見ていた。百人一首の札から同じ言葉を拾い出して出来上がる「水無瀬絵図」には、兄妹の同じ記憶・言葉を紡いで将来の風景を描けと言う父・義孝の想いが込められていると小倉は解釈している。それが、彼らにはわからない。現に、今のこの２人は父がどんな人間であったか、その肖像さえ上手く思い出せないでいた。
父親の真意を理解した光孝と紫は自らの言動を恥じる。土下座をして投票を懇願する光孝、それに寄りそい頭を下げる妹の紫。亡き義孝が相続にあたりこの「ＥＺ」を指示した意味を、一同はここへきてようやく理解し始めた。彼は生前、こんな風景を望んでいたのかもしれない。
やがて明らかになる義孝の死の真相、そして最後の投票が行われる。
