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大戦中、ドイツの暗号解読に大きな貢献を果たしたブレッチリーパークのHUT4は、終戦から1年を迎えようとしている今も、解散される事はなく、職員達の苛立ちは日々募っていた。解散されない理由の一つには、暗号解読機『ミネルバ』の改良を続けようとするソール博士(岩田裕耳)の粘りがあった。それはひとえに別のHUTの学者たちが開発した「コロッサス」への対抗心から生まれたものである。しかし、チームの主任である数学者のサイモン(小笠原佳秀)は、開発続行には懐疑的で、上層部に研究の中止を申しでるつもりであった。サイモンは記憶障害を持っており、翌日になると自分の言動を思い出せなくなる。そこで記録官のグレース(下平久美子)が彼の言葉を逐一メモに取っていたのだが、グレースはそんなソール博士に同情的であり、発言のメモを破棄する事により、解散の先延ばしに一役買っていた。

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HUT4の最高責任者であり、組織の解散権をもつ秘密情報部のサム=アトリーは、この施設の中に戦時中、ナチスドイツに情報を流していた内通者が2名いる事を独自に調査し、本部に報告していた。報告の真偽を確かめる為、調査に派遣されたのはロドニー(道井良樹)であった。HUTに常駐する情報部員のスコット(谷仲恵輔)とセス(小原雄平)は、ロドニー来訪の理由に驚きながらも、内通者の特定に動く事になる。スコットは一計を案じ、内通者のどちから一方が進んで自白した場合には罪に問わない「囚人のジレンマ」を用いて、内通者同士の疑念を生み出す仕掛けを提案する。対照的に仲間を疑う事に気のひけているセスは、消極的であった。とにかく問題は、事情を聞こうにも、当のアトリーの行方がわからない事である。

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婦人海軍から出向しているビッキー(小舘絵梨)とドーラ(犬井のぞみ)は、HUTが解散されない不信感を上司であるセスにぶつける。そんな中、情報部員であるサリー(小川麻琴)が、未解読の暗号を発見する。暗号解読者アリス(武川優子)はコードブックを元にドイツの攻撃指令書だと推定する。既に戦争は終わっているので、意味のない暗号だと一同が一笑にふすも、過去にドイツの空襲を受け、故郷を見捨てざるをなかったサリーは、その可能性を捨てきれず、倉庫へと空爆の記録を調べに行く。一方、サイモンは、暗号文の中に「アトリー」という綴りを見出す。しかしそれも推測の域を出ず、解読機が動かない以上、結論は出せないでいた。しかしながら、この推測は、施設内に内通者がいるという情報と簡単に結びつき、アトリーへの疑惑が生まれる結果となる。

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アリスは解読機の開発に固執しつづける博士の能力を別に活かせないか考えていた。そこでただの解読機であった「ミネルバ」に任意の言葉を打ち込むと、決められた言葉が返ってくる、つまりはまるで人間と会話をしているように錯覚する機械、「人工知能」への改良を提案する。ソールは嬉々として取り組むこととなるが、技術者チームのシド(片桐俊次)、モニカ(新野アコヤ)、スパイク(瀬崎良太)は手違いから既にミネルバが分解されている事を告げられずにいた。ソールは、ミネルバが発すべき言葉を書いたメモを渡し、設定するように命じる。彼らは、メモに沿って手動で打ち返す事で乗り切ろうとする。

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家政婦のシーラ(渡辺美弥子)は廃棄倉庫で恋文を発見し、ロドニーに報告する。文面は男性のもので、イニシャル「SA」から「SA」へ宛てたものである。職場内の恋愛は厳しく禁じられているが、ロドニーが動揺したのは、送り相手の「SA」に当てはまるのは、サリーただ一人であるとの結論に至ったからである。ロドニーとサリーは、密かに結婚していた。もちろん、公表できない事であり、常々サリーには仕事をやめて、家庭に入るよう説得していたが、この仕事にやりがいを持っていた彼女の意思を変える事は出来なかった。HUT内で「SA」をイニシャルに持つ男は3名。サイモン=アダムス、セス=アシュワース、サム=アトリー。嫉妬にかられた彼は内通者の特定よりも優先して、手紙の送り主を探し出そうと躍起になる。

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それぞれの理由でアトリーを探す情報部員たちは、「ミネルバ」から打ち出された言葉を見て、彼が機械室にいると思い込む。実際は、機械室の中で技術者たちが返答していたのである。これを機械が作用した結果と思い込んだソールをはじめとする研究者たちは、人工知能実験の成功に興奮していた。そんな研究者たちの純粋な想いとはうらはらに、内通者を聞き出そうとする者や、アトリーを内通者に仕立て上げようとする者が、決められた言葉しか返せない機械を相手どり、有利な情報を引き出そうとする思惑が、技術というものの姿を歪めていくのであった。機械の中で技術者たちは、博士の理念を尊重してあげたいと思いつつも、自分たちの判断で「アトリー」という人物の虚像が出来上がっていく事に罪悪感を感じていた。

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だが、事態はアトリーが倉庫で死体となって発見された事から急転する。以前より、ロドニーとサリーの関係に疑念を持っていたスコットはロドニーを失脚させる為、容疑をサリーに向ける。実際、サリーは現場となった倉庫へ足を踏み入れていたのである。モニカの機転により、一旦はスコットの追及を交わしたが、意図せずにミネルバが打ち出した結論は、アトリーがサイモンに想いを寄せていたという、社会的に許されない恋愛の形であった。その告白を「内通者であること」の自白と勘違いしたセスは、自らが内通者であると告げてしまう。

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サイモンは、自らの過去の発言を元に作られた「ミネルバ」の言葉に、ある種の精神性を感じていた。「ミネルバ」が発する自分自身の言葉が、いつしかアトリーとの一体感を与え、それがえも知れない幸福感に変わる。記憶障害をもつ彼は短期間の記憶しか保てない。その為、グレースに発言を逐一記録させていたが、彼女ですら、彼の内面は推し量れない。彼は自分がアトリーを愛していたのではないかと仮定する。そして、その殺害すらも或は。サイモンは事情聴取に向かう前に、遺体となったアトリーとの面会を願い、HUTを後にした。

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スコットと共に、セスを本部へ連行する為、サリーはコートを持って出かけようとしていた。ロドニーはサリーを労わり、コートの裏地のほつれに気付き、シーラに修繕を依頼する。サリーは仕事を続けたいと願い出るが、家庭に入ってほしいというロドニーの思いは頑なだった。彼女は夫に、疑われた自分を必死に庇ってくれた事を感謝し、職場では普段、見せた事のない穏やかな笑みを投げかけ本部へ向かう。踵を返した彼女の顔に、既に笑顔はなかった。

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誰もいなくなった部屋でシーラは、未解読とされていた暗号を細く切り、1本の紙テープ状につなぎ合わせ、ホウキの柄に巻き付ける。そのスキュタレー暗号に書かれていたのは、ヒトラーの遺言であった。誰かの気配を察し暗号を破棄すると、アリスがやってくる。コートの裏地を見て、自分が色覚異常者であり、それがナチスドイツへ対する勝利の執念の原動力であると告げる。彼女は、やがて訪れる英国の没落を予言めいて、大学の研究室へ戻るため、HUTを後にしていく。終始平静を装っていたシーラだが、コートの裏地を見て激しく憤った。裏地には共産主義国家の赤い旗が縫い付けられていた―。

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用語

ブレッチリー・パーク

イギリスはバッキンガムシャー、ミルトン・ケインズのブレッチリーにある庭園と邸宅。元はイートン荘園の一部で、邸宅は1711年にブラウン・ウィリスが建てた。サミュエル・リップスコム・セカムが1877年に相続してから1883年に売却するまでの間に、ブレッチリー・パークの名で呼ばれるようになった。第二次世界大戦期には政府暗号学校が置か、ドイツ軍のエニグマ暗号の解読に成功するなどの成果を上げた。

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HUT(ハット)

ブレッチリー・パークの中に点在するプレハブの建物の名称。各ハットにはそれぞれ暗号解読者や傍受担当者が配置されて、一つのチームを組んでいる。ハットごとに競うようにしてドイツの暗号解読にあたった。

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エニグマ

大戦中、ドイツが用いていたローター式換字暗号機。当時最も高度な暗号機であり、ナチスの空挺団や部隊の通信を保護し、解読は不可能と考えられていたが、ポーランドとイギリスの学者によって解読法が発見される。その事実は徹底して秘密にされ、ドイツ軍は終戦までエニグマを使用し続けた。

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アラン=チューリング

天才数学者として、ドイツの暗号を解読するいくつかの手法を考案し、英国の海上補給線を脅かすドイツ海軍のUボートの暗号通信を解読するハットの中心人物となったエニグマの解読に成功するが、戦後数十年間、存在が公にされることのなかった救国の英雄である。

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コロッサス

エニグマより複雑化したドイツ軍のローレンツ暗号機の打破の為に開発された解読機。チューリングの「ボンベ」解読機を、トミー=フラワーズが改良し完成させた。1944 年のノルマンディ上陸作戦においても連合軍に貴重な情報を与えた。

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ミネルバ

ソール=オリヴィエによって開発されたコロッサスの姉妹機。理論上の性能はコロッサスに劣らず、確実な成果も挙げているが、実際の処理速度において惨敗を喫している

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