南海に浮かぶ孤島では、かつてそこに存在したと言われる古王国についての調査をする日本人研究者のチームが共同生活を送っていた。島には現地の開拓者の集団もいて、日本人たちへ時に食料を分け与え、住まいを提供し、あくまでも平穏に暮らしていた。ところがいつからか天候が悪化し、数キロ離れた本島への渡航及び連絡手段も無いまま数日間が経過する。水も食料も徐々に残り少なくなっていき、いつしか両者の間には緊張感が漂っていた。
研究者たちは、かつて古王国にて王が民衆支配に使用したといわれるモナークと呼ばれる石版を発掘していた。現地の開拓者は、彼らの貴重な歴史財産であるモナークを勝手に調査されるのを元々快く思っていなかった。ある日、不満を爆発させた開拓者たちは直接行動に出たが、研究者たちが無意識に並べてあった石版に恐れおののいて退散する。現地の開拓者が未だにこの石版に縛られているのに気付いた研究者たちは、モナークを利用して彼らを支配しようと考える。
研究者たちは夜に一様に同じ夢を見る。かつての王国では王が私欲の為に法を乱発し、民衆は圧政治に喘いでいた。しかしこの時代、とある有力貴族の働きにより、王の権力を縛るため、各村から評議員を選出し王へ要望を受け容れさせる事になる。その初めての評議会へ急ぐ南部三村の評議員たちは、増水した川に行く手を阻まれ、宿屋にて苛立つ気持ちを抑えきれずにいた。他にも宿屋には様々な事情を持つ者がいる。都へ税を納めた帰りの母娘、法により王宮へ娘をさしだそうとする父親、徴兵を回避する為に、息子の結婚を急ぐ母親。それぞれに現状への悩みを抱えつつも、王が民衆の要望を初めて聞き入れるという評議会への期待は捨てていなかった。そこへ新たな法が発布される。
「民衆の王への要望は一つだけとする」
それはどういうわけか、現代の研究者たちが現地開拓者へ与えた法に他ならなかった。
自分たちが作った法律が夢の中にまで影響を及ぼす事を知った研究者たちは、当初は国を良い方へ導こうと画策する。だが、それは同時に開拓者たちへの自由を与えるという事に繋がり、徐々に自分たちを縛っていく結果となる。またある者は、夢の中の個々人への同情から、モナークはいつしか、国を救う事から個人を救う為に利用され始める。その視野の狭さを認めながらも、彼らは王国の民衆への同情と使命感、何よりも現地開拓民への恐れから、モナークに頼らざるを得なくなっていた。
王国の宿屋には王宮から連れ出された王と思しき男が身分を隠して匿われる。またそれを追ってきたと思われる執行官を巻き込み、現代の人間に法を作られているとは知らない王国の住人達は、乱発されるモナークに振り回されていく。それは王への怨嗟の声となるが、間違った法であれ、それに逆らい罪を得ることを民衆は恐れている。その間違いを間違いだと声をあげて見せたのは、「王」と思しき男、その人であった。
男が王であると判断した研究者たちは、王が島から逃げ出す事を禁じる為、船の破却を命じる。遠くの方では開拓者たちが研究者たちの為に作った船を、壊す音が聞こえる。他人を縛ろうとした方で自らを縛り、結果として島を出る手段も自らの手で失ったのである。男は王ではなく、王の権力を削ごうとした開明的な貴族であった。この宿屋にて民衆の心情をくみ取った彼は王宮へ立ち戻り、再び王と対決する決意を固める。その矢先、意図しない無垢な善意の前に斃れてしまう事となる―。