【1】 女「―こういう歌詞です。日曜日に市場へ出かけ、糸と麻を買って来た。月曜日にお風呂をたいて、火曜日はお風呂に入り。おかしいと思いませんか。月曜日にお風呂をたくんです。で、入るのが火曜日なんですって。お湯さめるでしょ。さっさと入れよって事」 三輪「確かロシアかどこかの歌だったな」 女「続けます。そして水曜日に、あ、その前にテュリャテュリャ」 三輪「それ省略していいから」
【2】 女「だから何?何かをしたようでいて、何もせずに過ぎ去ってしまう。一週間というのは長いようで短い。って事です。それは人の一生も同じ。あ、アナタは死にました。で、日曜日に市場へ出かけ、糸と」 三輪「待て待て待て!え?え?さらっと重要な事言ったな!」
【3】 三輪「もうかれこれ十年近くも会っていない。死ぬ前に一目、会いたかった。そんな事はできるわけないがね」 女「できますよ。例えば、もう一度、生まれ直すんです」 三輪「生き返るのか?どうやって?」 女「どうやって?」 三輪「え?」 女「え?」
【4】 金森「少子化だっていうのに、子育てしにくい環境にしてどうするのって話ね。でも。よくマンションの中に、保育なんか作れましたね」 智絵「部屋の持ち主の好意で。昔から友人で。私たちが場所を探している時に、ここでやったらどうかって言ってくれたんです」 金森「それって、先日亡くなったお爺さんの事?」 智絵「お爺さん?って?」
【5】 金森「日野さんって人が結構神経質で。騒音の事とかに口やかましいのね」 智絵「それは…本当に大丈夫よね」 早希「…大丈夫だと思います」 金森「毎日のように会合開いて、何かしらを問題にするの。一種のクレーマーみたいな所あるから。上の階の足音とか、隣の音楽とか」 智絵「それも…本当に大丈夫よね」
【6】 早希「娘さんですか。じゃあ、騒がないですよね。無口だったりします?」 金森「それどういう確認?」 早希「あまり走り回らないですよね。元気ない感じですか?」 金森「却って心配になるでしょ」 早希「足音とかたてないタイプですか?床を滑るように移動するとか、何だったらちょっと浮く事ができるとか」 金森「そんな子供いる?不気味じゃない?」
【7】 智絵「その保育所が閉まってから、お仕事は?」 金森「行ってましたよ。休むに休めないんで」 智絵「その間は、どうされていたんですか。今日とかも」 金森「…ちょっと、知り合いに見てもらっていて」 早希「ご主人は?」 智絵「…余計な詮索しないの
【8】 木内「これから、お宅が賑やかになりますね」 土屋「すみません。泣き声とかで、ご迷惑お掛けするかもしれませんけど」 木内「そういうの、お互いさまだから。ほら、金森さん所のさとみちゃんも、今年でいくつだっけ?3歳?毎日、元気な声で騒いでる」
【9】 金森「でも、あんなにささやかな葬儀でよかったんですか?」 土屋「それは失礼でしょう」 金森「だって。参列したのはこのマンションの人ぐらいだったでしょ」 佳織「祖父は私の他に身寄りがありません。それに人付き合いの苦手な人で、友人などもおりませんでしたので」 水本「にしてもね。あんなに早く焼香が終わるとはね」 木内「お経が余っちゃってね。まさかの二週目に突入するとはね」
【10】 水本「木内さんがもう一回行くからですよ。続かざるを得ないでしょ」 木内「だって、アンタたちが「お前もう一回行けや」みたいな空気だしてたじゃない。全く。初めての経験だわ」
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撮影者:佐藤淳一 ※この画像の著作権は団体並びに撮影者に帰属します。