【1】
在原「やっと、楽になれたんですね」
清原「意識不明の状態が続いていたそうですから」
坂上「―今、会長のご自宅にいます。少し前に、息を引き取られました」
伊勢「坂上君。声が大きいよ。静かに電話したまえ」
【2】
和泉「すみません。…足の具合は?その節は大変申し訳ありませんでしたね」
清原「いえ、私も不注意でしたから。ご覧の通り、ギブスもとれまして」
【3】
阿倍「会長は病室にお気に入りの絵を飾っておいででした。私は毎日絵の向きを調節して見やすいようにしていたんですが」
在原「意識を失っていたんですよね。なのに、絵?」
【4】
阿倍「年齢も年齢だったから。回復したところで植物状態だったかも」
坂上「決まってるでしょう。菊の花ですよ」
在原「菊の?…いや、植物状態というのは、実際の植物の事ではなく」
伊勢「今のは電話の向こうの会話です。お気になさらず。こら、坂上」
【5】
紫「遺産の分配には納得できません。何で兄さんは良くて私はダメなの」
和泉「会長が倒れられてから、光孝さんが社員を引っ張ってきましたし」
【6】
祐子「経営の事、何も知らないアナタが引き継いだってしょうがないでしょ」
紫「知らないのはお義姉さんだって」
祐子「そうよ。何の会社かも知らないわよ」
和泉「それぐらいは知っておいて頂きたい」
【7】
祐子「…ねえねえ。誰なの。あの人」
清原「さあ、私は存じ上げません。どなたかの関係者ではないのですか?」
祐子「今さら聞けないわよ。失礼になっちゃう。ちょっと探りいれて頂戴」
【8】
坂上「―話は通ってるかな。明日の通夜とその後の葬儀の手配を。それと関係先に連絡を差し上げた方がいいな。いや、LINEじゃダメでしょ」
伊勢「ダメだよな!せめてFAXだよな!」
坂上「あそう、じゃ、まあ、LINEでもいいか」
伊勢「何故だ、何故押し切られた!」
【9】
在原「それ…メモ用紙なんですか?」
阿倍「私、記憶力と理解力が低くて。あと人間力も低くて」
在原「三重苦ですね」
阿倍「その都度書き留めておくんですがね。…ないな。使って水に流したか」
【10】
祐子「成程。そっち系の商売女って事ね。清原さん、お茶を頂ける?一旦落ち着つこう」
清原「あの奥様、これは旦那様ではなく、大旦那様の話ですからね」