【1】 和泉「彼女の父親が冤罪である事を、記事にしてほしいそうなんです」 児玉「書いた所で、それが誌面に載るかどうか」 平井「どうして」 児玉「それらは全て、誰もがそうで会ってほしいと言う筋書き通りだから」
【2】 双葉「困ります。死ぬんですか。この女性は」 嵯峨「そうなります。持参した毒薬を、湯呑に入れて。何か問題ですか」
【3】 嵯峨「服毒自殺する箇所が気に入らないの?」 双葉「昨今、世間では自殺者が増加しているのはご存知ですか」 嵯峨「格差と分断が広がった、生きづらい社会から逃れたいという願望。今の政治のいい加減さが引き起こした結果と言えるかもしれません。彼女の場合、父親の無罪を晴らしたいが為に、とある出版社を訪れて、真相究明を訴えかけるも、それが拒絶されて、社会に絶望した」
【4】 双葉「作中で誰一人死なせないでください。命を軽く扱わないでください。それができないなら、この作品は世に出せません」 嵯峨「そちらの都合で私の表現の自由をを侵害しようとするんですか」
【5】 嵯峨「社会部ですか。社会部は隣の建物になります」 野村「隣の。…どうやって行けば。すみません、私、方向に疎くて」 嵯峨「隣ですから、その入り口を出られて右手方向に」 野村「右手方向ですか」 嵯峨「それ左手です」
【6】 双葉「…寝てる場合じゃない、すみません先生、仕事中に。それで。直して頂けましたか?…嵯峨先生ですよね?作家の。文精堂から新作を」 嵯峨「嵯峨です。ここは大日出版ですけど。私、ただの受付事務ですけど」 双葉「編集者の私が、原稿の直しをお願いして」 嵯峨「何の話ですか。夢でも見てたんですね」
【7】 双葉「私って、誰ですか」 嵯峨「寝ぼけているんですか。週刊「循環」の編集者、双葉さんでしょ」
【8】 神沢「子供の頃からたくさん本を読んだわ。この年齢になってね、夫にも先立たれた。これからは私も自由に、人生を楽しまなければ。そういう気持ちが湧いて、もう一度、この世界に羽ばたいてみようって」 井上「あの、原稿もちゃんと読んでください。先輩」 立花「あ、はい」
【9】 山部「そうだ。編集長から例の絵本が届いてるぞ」 河瀬「私、これから来客があるんで。取材なんですけど」 山部「だったら手の空いている奴に投げろ。児玉とか。あと、児玉とか」 河瀬「あの人、やる気ないからダメ。配属変わって、腐っちゃって」
【10】 嵯峨「文芸担当宛ての投書です。これ全部、先週号の反響ですか?」 山部「せいぜい7割ぐらいは。いや、6割だな。残りは聞かなくていい苦情。世間の声を気にし過ぎて、表現の自由を葬るのは愚かだよ」 嵯峨「そうなんですか。山部さんがそんな事を仰るとは意外です」
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撮影者:佐藤淳一 ※この画像の著作権は団体並びに撮影者に帰属します。